スガ旅

夫婦で世界の大自然を歩いた旅の記録

サナブレスの道⑧

DAY32

A Gudiña → Ourense(電車)

朝6時半に起床。8時半の電車に乗るため、アプリでチケットを購入。

朝イングリッドに話すと、彼女も足の状態が悪く30kmオーバーの今日の行程を歩けそうにないから、一緒にオウレンセまで行くと言う。
彼女の気持ちまで引っ張ってしまったかと心配だったけど、昨日の山道で太ももの痛みが悪化したらしい。

イングリッドが下のキッチンに行き、マティアスに呼ばれる。今日はイングリッドの誕生日らしい。マティアスはロウソクを用意していて、小さなお菓子にロウソクを刺して、ボブと一緒に下に持って行ってバースデーソングを歌った。
イングリッドは今日で70歳になった。信じられない。若すぎる!

この1週間彼女が私よりでかいバックパックを背負って山道を歩いているところを何度も見ていたし、ホテルではなくアルベルゲの共同部屋でのびのびと生活しているところを見て、まさか70歳とは一度も思わなかった。

ボブやアンナ、マティアスに別れを告げ、30分後にイングリッドとカフェで待ち合わせた。
朝ごはんを食べて、駅までゆっくり歩く。

途中で駅が2つあることに気がつき焦ったが、通りがかりのタクシーのおじちゃんに道を聞くと先導してくれた。めちゃくちゃ優しい…。

駅に着いたら着いたで駅員のおじちゃんがあれこれ手伝ってくれてイングリッドの切符も購入し、ホームはどこかと尋ねると一緒にホームまで登り乗車する車両までついてきてくれた。心からのムーチャスグラシアスを言った。

無事電車に乗り、納得していたはずなのに、とうとう乗ってしまったな…と思った。
1駅30分の区間だが、歩いたら2.3日かかる距離だ。それを8€で30分。悲しくなる現実。
歩いて2泊して行くより断然安いやん…。

たまに見える景色は山、山、山で素晴らしく、さぞかし気持ちの良いルートだったろうな…と思う反面、今の私の足にはきっと酷だったろうなとも思った。

悲しいほどあっという間にオウレンセに到着し、駅から10分ほどのホステルを目指した。もちろんホステルのチェックイン時間は午後だったけど、ザックを預かってもらえた。

まずは生のオレンジジュースが飲みたいと私が言い、二人で生のオレンジジュースがあるバルを探した。4軒ほど周ってようやく見つけ、二人でジュースで乾杯した。

どう考えても今日歩くの無理だったね、と笑い合った。薬でごまかしながら10日間痛みを我慢して歩いたけど、自分の頭で納得出来るまでこんなにかかっちゃった、とイングリッドに話すと、わかってる、つらそうなのに毎日歩き続けているところは見ていたから、あなたの葛藤はわかってる、と笑いながら返答してくれた。
わかってくれている人が目の前にいてくれて、それで十分だった。

30日以上歩き続けてあと少しというところで歩けなくなる、私にとってはなかなか諦めがつかなかった。大丈夫、まだ歩ける、まだ歩ける、と独り言を呟きながら毎日最後の数キロを我慢しながら歩いていた。昨日更なる異変を感じて、ようやく踏ん切りがついた。

オウレンセからサンティアゴまではまだ100kmある。日曜日からはまた少しずつ歩き出そう、とイングリッドと話した。ただ、今は休息を満喫しよう。宿に着いたらシャワー、洗濯、物干し、ご飯、就寝、そして起きたら8時までには宿を出て歩く。その生活を少し休めると思うと、心が少し休まった。何より今日はイングリッドの70歳の誕生日だ。彼女の話をたくさん聞きたいと思った。

バルを出たあとは橋まで歩き、ここを通って行くはずだったんだね、と二人で写真を撮り合った。
サラマンカでリーと一緒に歩いたように、今度はイングリッドと腕を組んで支え合いながら歩いた。いや、どちらかと言うと私が支えてもらっていた。

イングリッドは度々スマホを見て笑顔を見せ、たくさんの友人からのバースデーメッセージを紹介してくれた。電話も度々鳴った。
この友人はね、これこれこういう人で、大好きなの!と話す彼女がとても素敵だった。イングリッドには大好きな友人がたくさんいた。

ツーリストオフィスに行きマップをもらい、今度は何か食べようとメルカドと書かれた建物に入った。フードコートのようになっていて、プルポを発見。二人で顔を見合わせて、食べよう!と即決。
プルポをオーダーし、また色々な話をした。

彼女はフェミニストで、女性の権利のために人々はもっと立ち上がるべきだと熱弁。
私は女性の権利が守られている家庭なのであまり意識はしていなかったが、ドイツではまだまだ女性の方が給料が低かったり、女性が家事をするのが当然と思われていたりするという。日本もそうなのかもしれない。

プルポを食べ終わり、チェックイン時間にホステルに行って受付を済ませた。2泊で36€。キッチンもあり朝食付きだ。

少し休んでからまた二人で外出し、大聖堂に向かった。大聖堂見学は有料だが、巡礼者は割引になった。スタンプも押してもらった。

オーディオガイドをもらったが、もちろん日本語はなく英語。イングリッドはドイツ語のオーディオガイドだった。この彫刻は誰が何世紀に作って…という説明が永遠に続き、脳が途中から翻訳をストップした。イングリッドも母国語ガイドなのに「情報が多すぎる」と途中から放棄していた。

大聖堂を出て、またバルに入ってコーヒーを飲んだ。イングリッドの人生は豊かだ。年齢などまったく気にしていない。ただ、人生は短いということだけは気にしていた。「人生に大事なことは、家族、友情、そして喜び。たまにカミーノに出かけることはとてもいいことだと思うの。バックパックには必要なものしか詰められないけど、何が本当に必要なものなのかがわかるでしょ?これで1ヶ月旅をすると、自分の通常の生活を外側から俯瞰して見られるようになるのよ。何が大切で、何が正しいか。そして何が重要じゃなくて、何が間違っているか。」

今回で6度目のカミーノを歩いているイングリッド。何歳になってもたった一人で世界に心を開きに行ける女性は素敵だ。

帰りにスーパーに寄り、サラダの材料を買ってホステルに戻った。今日の晩御飯はサラダとパン。シンプルだけど、ちょうど良かった。

キッチンで食事をしていたら他の宿泊者がやってきて、一緒に話した。彼はスペイン人で、仕事で今日は一泊しているだけだけど、カミーノ経験者でもあった。

「カミーノの何が素晴らしいかって、サンティアゴではなくて、そこに至る道中だよね」という彼の言葉もまた突き刺さった。

話好きのようで、カミーノの話から政治の話まで2時間ほどすっかり話し込んだ。シリアやウクライナの難民の話を自分たちのこととして話している彼らを見て、日本との温度差をまざまざと感じた。知らないことがあまりにも多すぎる。そして、当事者にしか感じ得ないことを世間話として聞くことができているこの瞬間は、とてもありがたく、大切な時間だった。

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