9日間かけて、ユーコン川を夫と下ってきました。
後編の記録です。
5日目(DAY77)
ぐっすり寝て昨日の疲れをリセットし、先に出発するベルギー人パーティを送り出した後、ゆっくりと出発の準備をしました。
川地図を見返すと、昨晩雨の中夢中で漕いでいるうちに、いつの間にかユーコン川に入っていたようです。ユーコン川に入ったら叫びたかったのに、そんな余裕微塵もなかった…。
アメリカやカナダでよく見かける「オートミール」。一度アメリカのRVパークの朝食で食べて以来苦手だったのですが、ユウスケくんがいつも食べていたので味見させてもらいました。
食べてびっくり、めちゃくちゃ美味しい!
ユウスケくんが食べていたオートミールは「メープル&ブラウンシュガー」味をお湯で溶いたもの。すっかりハマってしまい、何度も試食させてもらいました。
今日も3人仲良く出発です。
最初は、「一人旅でユーコンに来ているから、キャンプ地もずらした方がいいんじゃないか、一人になりたいんじゃないか」と夫と共に気を使っていましたが、ユウスケくんは「自転車ではいつも一人だから、日本語恋しいんです。一緒にキャンプしてくれて嬉しいです!」と100点満点の返答を頂きました。だったら遠慮なく、と私たち夫婦は野生の男と共にこの川旅を続けることにしたのです。
左からくる雨雲に追いつかれないように全力で漕ぎます。雨が降る前の風の吹き方も、肌で分かるようになってきました。
キャンプ地に到着する直前、先に着いていたユウスケくんがドローンで撮影してくれていました。
この日は珍しくずっと天気が良かったので、みんな川で沐浴をしました。
シャンプーも石けんもなしですが、水に浸かるだけでかなりさっぱりしました。冷たすぎて私は5秒で上がりました。
昨日頑張って距離を稼いだおかげで、この後の行程が楽になりました。余裕が出来ると、濡れたものを干したり人間らしいことが出来ます。
この日はお互いの食料を出し合い、みんなで一緒の食事をすることに。我が家からはたくさんあるじゃがいもと玉ねぎを、ユウスケくん特製のビーフシチューに入れてもらいました。
毎日船を漕ぐだけですが、日々の夕ご飯がモチベーションとなっています。
今日は何を食べようか、あの食材使っちゃおうか、そんなことばかり考えて漕いでいます。
6日目(DAY78)
今日も次のキャンプ地を目指して出発。もう一回釣りがしたいよね、という夫とユウスケくんの意見から、小川が流れこむポイントにあるキャンプ地に設定しました。
ユーコン川に入ってから流れが少し早くなったので、漕がなくても程よく進むようになりました。行動食として持って来ていたチョコビスケットやジャーキーなども残り少なくなっていたので、あまり頑張らないように体力を温存しながら進みます。
普段口数の少ない夫ですが、川旅中ずっと「本当に来て良かった。最高だ。」と言っていました。
私にとっては一番嬉しい言葉でした。
キャンプ地に着いてみると、調理台も物干しもイスがわりの丸太もあり、かなり調子の良いキャンプサイトでした。
テントを張るとすぐに釣りを始める二人。釣れたらまたあの絶品の塩焼きが食べたい。
私は焚き火用の薪集め。
川地図にも記載のあるLP(ログパイル)とは、折れた木や倒れた木が流れ着く場所で、カヌー的には危険箇所。カヌー中はLPを避けながら漕ぐのですが、乾いた木なので焚き火に最適です。
ユウスケくんの立っているところにあるのがLP。
あるはずだった小川は干上がっていたので、そこから焚き火用の木をたくさん拾うことが出来ました。干上がっていたおかげで魚は一匹も釣れませんでした。
木を両手いっぱいに拾って運んでいるうちに、「北の国から」の蛍が石を運んでいるシーンが頭に浮かびました。ここにいるとお金なんて何の意味もなくて、考えることは食べ物のことと熊のことくらい。目の前には圧倒されるくらいの大自然が広がっていて、途中離脱することも引き返すことも出来ず、進まないと帰れない。それでも、最高に自由を感じていました。
今日の夕飯は我が家からペンネと、ユウスケくんから野菜スープ。
3人の川旅も残りわずか。私たちのレンタル期間は9日間ですが、ユウスケくんは8日間のため、行程の配分的に今日が最後の合同キャンプかもねーと話していました。
7日目(DAY79)
ゴールまで20キロ地点くらいまで行ってしまうユウスケくんを送り出し、いつも通りゆっくり準備する我が家。
この日、朝一から沢山のカヌーがキャンプ地を横切っていました。みんな口を揃えて「カーマックスまであとどのくらい?!」と叫んできます。大会か何かでしょうか。
出発するため船を出そうとしていると、通りかかったカヌーから「そこはチェックポイントか?!」と聞かれました。何の話か全く分からない私たちがポカンとしていると、もういいやと言って去って行ってしまいました。
ニュージーランドの国旗を付けたカヌーに一瞬で追い越されました。
途中、リトルサーモンビレッジという場所でテントを張っているおじさんに、「君たちは選手かい?」と叫ばれました。違いますよーと叫ぶと、「良い旅を!」と返してくれました。どうやらチェックポイントとはここのことだったみたいです。
急ぐ必要のない私たちですが、周りのカヌーが急いでいるので何となく全力で漕いでみますが、足元にも及びませんでした。選手の皆さんは川の流れをきちんと読んでいて、流れの速い方に移動して進んでいました。とても疲れた様子の選手のカヌーですら、一瞬で見えなくなるくらいでした。(私たちが異常に遅い可能性も大いにある)
少し進むと、何と電線が見えてきました…!文明社会に帰ってきた!
この日、ユウスケくんはきっと最終日くらい一人で過ごしたいよね、と夫と話し合い、ユウスケくんとは別のキャンプ地にしようとしていた私たち。
目星を付けていたキャンプ地がどれも荒れていて、蚊が多く熊も出そう…。迷っているうちにユウスケくんのカヤックが止まった島が見えてきました。
最終日まで一緒でごめんね、と謝りながら上陸すると、「来てくれるかな、とちょっと期待してたので嬉しいです!」と社交辞令だとしても100点満点のセリフを言ってくれる心優しい野生の男。どこまで出来た男なんだ…!
早速夕飯を作ります。
ユウスケくんに、「もう電波入りますよ」と言われ、スマホをチェックすると、家族からたくさんのメールが。
9日間電波が入らないことは伝えていたのに、「今どこ?」とか「無事?」とか、かなり心配していたようです。私も実際にやる前までは無事に帰って来られるか心配だったので、そりゃあ心配するよな、と思いました。また、何人かの友人からも「ブログの更新がないけど無事なの?」とメールがありました。
生存報告をしながら久々のスマホをいじっていると、一瞬で元の生活に戻った気がしました。
この日はゴールまで20キロのキャンプ地だったので、トイレットペーパーが尽きたこともあり、1日早いけれど私たちも明日ゴールしてしまうことにしました。
初日は蚊に囲まれてのトイレが苦痛でしたが、刺されないよう死守している間は苦労しますが、一箇所刺されるともうどうでもよくなりました。
人間、必死に守ろうとしているものは、案外そんなに大事じゃないんだな、みたいな哲学的な事を考えながら用を足しました。
8日目(DAY80)
朝目覚めると、ユウスケくんが早起きしてご飯を作っていました。
そして何と私たちのためにお昼ご飯のおにぎりまで握っていてくれました。
ホワイトホースでまた会おう!と約束し、野生の男は旅立ちました。
最終日まで熊に襲われなくて本当に良かった、川の事故にも遭わず本当に良かった。終わって欲しいような、終わって欲しくないような、複雑な気持ちを抱えながら最後の20kmを漕ぎ始めました。
突然夫が「何か走ってる!」と言うので横を見ると、熊が山をかけ降りていました。
熊って坂を下るのは苦手だと思っていましたが、普通に全力でかけ降りていました。怖…
ゴール目前の目印である電線が見えてきました。
無事にカーマックスのコールマインキャンプ場に到着です。
ユウスケくんもキャンプ場にいて、英語が堪能な彼はキャンプ場のチェックインなども手伝ってくれました。
櫛田さんに1日早く着いたことを連絡すると、明日の早い時間に迎えに来てもらえることになりました。ありがたい…!
カヌーをキャンプ場にあげ、歩いて30分ほどの所にあるスーパーマーケットまで3人で行くことにしました。
久々の文明社会。コーラと甘いケーキを買い、駐車場で一気食いしました。
ユウスケくんはここからヒッチハイクでホワイトホースに戻ります。私たちはカーマックスに一泊なので、邪魔にならないようささっとお別れをしてキャンプ場に戻りました。
スーパーで買ったパンと残りの食材で、ユーコン川最終日の夕ご飯。周りには家族連れのキャンパーやRVがたくさんあって、もう熊の心配もありません。
コインランドリーで洗濯をし、コインシャワーで6分間のシャワーを浴びました。
この日は疲れがどっと出たのか、夫も私も12時前には寝てしまいました。
9日目(DAY81)
キャンプ場に貼ってあったアラスカハイウェイのMAP。ここカーマックスで食料調達とシャワーや洗濯ができれば、この先のドーソンまでも無理じゃないな、と思いました。次回はもっと長く挑戦したい!
11時に櫛田さんが迎えに来てくれて、カヌーと荷物を積み、ホワイトホースに帰りました。櫛田さんの顔を見てすごくホッとしたのか、帰りの車では爆睡してしまいました。
この日櫛田さんから、ユウスケくんと私たち夫婦みんなで焼肉で打ち上げをしよう、と最高の提案をいただきました。
夕方みんなで櫛田さんの事務所に集合。
さらにこの日は新しい出会いがあり、定年退職した翌日から自転車旅に出たというタカシマさんも一緒に焼肉を食べました。タカシマさんもユーコン下りをしようか迷っているとのことだったので、絶対やった方がいいですよ!と勧めてしまいました。
タカシマさんはアラスカから自転車で南下中で、ゴールはアメリカ・ラスベガスだそうです。初対面の私たちにもニコニコとお話しして下さり、前から自転車に乗っていたんですか?とお聞きすると、自転車旅をしようと決めてから自転車を購入したというから驚きました。すごいバイタリティ、こんな人は本当になんだって出来る。
タカシマさんのブログを教えてもらい、このページを読んでいたらなんだか涙が出てきました。タカシマさん、本当に素敵です!
櫛田さんがお肉もご飯も野菜もサラダも全て用意して下さり、私たちは櫛田さんの焼いてくれる肉を、餌をもらう雛のようにただただ食べまくっていました。ユウスケくんに関しては焼肉後にホットドッグを食べていました。
櫛田さんの所に来る人は、みんな少しおかしいというか、冒険心に溢れていて日本ではあまり出会えないような人ばかり。ホワイトホースがアラスカからの中継地点だからこそ、ちょっとぶっ飛んだ人がここを訪れる、というのも頷けます。
櫛田さんは、「俺は普通だよ〜」と言っていましたが、今の私の歳で脱サラしてユーコンで仕事を始めたんだから、やっぱり少しおかしいです。でも、私の考える「おかしい人」はとてもプラスな意味で、「強い精神力と信念が必要なことをやってのけているすげえ人」といった感じです。
「私、川下りをする前は、自分はとんでもないことをしようとしてるんじゃないかと思ってました」と言うと、「いや、とんでもないことをしたんだよ」と櫛田さん。
「日本に居たら獣に怯えながら眠ることなんてまずないでしょう。途中で買い物なんかも出来ないし、物は全て有限だし。こういう非日常を体験するっていうのは、同じ価値観の人にしかわからないと思うけど、感動するよね」と。
そうか、不便な川旅の生活の中に美しさを見つけられる、同じような感性を持った人たちがここに集まっているんだ、と気がつきました。
はるばるホワイトホースまで来てユーコン川を下ったおかげで最高の人たちに出会えて良かった。
彼らに負けないように人生を謳歌するぞ!と心に誓いました。
ゲストハウスに戻ると、粋な計らいか「ユーコン」ルームを用意してくれていました。
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