23日目(DAY137)
Bighorn Plateau-Guitar Lake上(9.8マイル/15.8km)
朝6時に起床。テントを開けるともう空は明るくなり始めていました。オマールも外に出て日の出を待っている様子。
目の前の池は鏡のように静かで、山々を美しく写し出していました。
夫が起きてすぐに水を汲んでくれたので、浄水して朝ごはんの準備です。
朝ご飯を食べていると、どこからともなく三脚を持ったおじさんが現れ、急に撮影を開始し出しました。
オマールが池の水を汲もうとすると、カメラマンがストップをかけました。今ベストコンディションだから後にしてくれと。
こちらからすれば水を汲まなくては朝ごはんも食べられないし、何だか勝手な人だな、と思いました。
いつも穏やかで優しいオマールが憤慨しており、おじさんが立ち去った後に、「美しい朝なのにさっきは嫌な場面を見せてしまってごめんね」と謝りに来ました。いやいやいや!オマールは何も悪くないよ!と言ってオマールを元気づけました。
今日はギターレイクの少し上、トレイルクレスト手前で仮眠をし、夜中にマウントホイットニーにアタックする予定です。10マイルほどの行程ですが、のんびり行く事にして9時頃に出発。
1時間ほど歩くと分岐に着きました。マウントホイットニーまで11.7マイル!本当によくこんなところまで歩いてきたな…。
お昼休憩に残りのフリーズドライを食べます。少しでも軽くしていきたい。
マウントホイットニーまで8.3マイル。ついに残り10マイルを切りました。ちょっとだけ寂しい。
クラブツリーのレンジャーステーションの分岐に着きました。ここにはポータブルトイレが置いてあり、1人1個持つことが必須です。私たちはヨセミテで貰ったものがあるのでスルー。
マウントホイットニー山域に入ると排泄物は持ち帰らなくてはいけません。標高が4,400mと高いので、分解されないのでしょうか。
ケイティたちと抜きつ抜かれつで歩きながら、ギターレイクに到着です。
ギターレイクからマウントホイットニーまでは水の補給場所がないため、ギターレイクがラストウォーターポイントとなります。が、夫のJMTアプリで見たところ、ギターレイクの上にも水場がありそう。
ギターレイクでケイティ夫妻と別れ、一段上の水場で水を持てる分だけ目一杯汲み、さらに上のテントサイトまで担ぎ上げました。結局テントサイトにも池があり、がっくり…。
上のテントサイトには先客がいましたが、3張くらいできるスペースがあったのでトレイルに近い場所にテントを張りました。標高は高いけどフライシートなしに挑戦。
夫が奥にテントを張っていたおじさんに話しかけに行き、どれがマウントホイットニーかと尋ねたところ、私たちのテントの正面がまさにそうでした。
彼の名前はブライアン。ホイットニーポータルにトラックを置いていて、下山したらシアトルまで帰るとのこと。「もし足がなかったらローンパインまで乗せてくよ!」と言って頂き、本当に会う人会う人優しい人ばかりだなと嬉しくなりました。
夜ご飯にピーナッツバターサンドを3枚食べ、テントに入ります。
10時頃、近くで足音が聞こえてむくっと起き上がると、若いハイカーが水を汲みに来ていました。「何時に起きるの?」と聞かれ、0時かな〜と答えると、「早すぎない?俺は1時にする!」と言っていました。
緊張のせいかお腹がゴロゴロするので、ストッパ下痢止めを飲みました。
- 実際の歩行距離(iPhoneヘルスケア調べ):15.6km
24日目(DAY138)JMT最終日
Guitar Lake上-Mount Whitney-Whitney Portal(17マイル/28km)
深夜0時起床。と言っても、興奮してほぼ眠れませんでした。
フライシートなしのメッシュだけのテントにして大正解。寝袋に入りながら、目を開けると無数の流れ星が見えます。
JMT最後の夜に相応しい、とても静かな美しい星空。
ホイットニー山頂付近を眺めると、すでに何個かヘッドライトの明かりが見えます。さあ、いよいよだ!
私がお湯を沸かしてご飯の準備をしている間に夫はテント内の片付けをし、二人で最後のフリーズドライを食べます。コーヒーも飲んで騒ぐ心を落ち着け、テントを撤収。
午前2時、出発です。
明るいうちにトレイルのチェックをしていなかったせいで、しばらくトレイルを見つけるのにウロウロしてしまいましたが、何とか合流。すぐにホイットニーポータルジャンクションへの登りが始まります。
寒さに凍えながらゆっくりゆっくり慎重に登ります。ヘッドライトの明かりが頼りで足元しか見えませんが、すぐ横は崖。石を落とさぬよう、静かに丁寧に足を運びます。高山病の心配もまだ捨てきれないので、水分補給と休憩をこまめにとります。
午前4時、ジャンクションに到着。
ここにザックをデポし、マーモット対策のためザックからベアキャニスターを取り出し、においのするものは全てベアキャニスターに入れてザックと並べて置きます。
準備をしているとケイティとブレンデンも到着。同じベースキャンプだったブライアンも小休憩して先に進みました。
午前4時半、アタックザックに水と防寒着と雨具、ナッツを入れて、サミットに向けて出発です。
さっきよりも険しい道になってきていますが、周りが暗いのでどのくらいの高さにいるのか、横がどのくらい切れ落ちているのか、あまり意識せずに登れました。とにかく星がどんどん近づいて来るような感覚でした。
午前5時半、少しずつ明るくなってきました。頂上まであと少し。いろんな思いが涙と一緒に込み上げてきて、あと10歩、あと9歩、と一歩一歩大切に心を込めて進みます。
「We made it!!」
両手を広げて頂上で待っていたケイティが抱きしめてくれた瞬間、自分でもびっくりするほど大粒の涙が溢れ出てきました。
標高4,418m。ヨセミテから340km。本当にしんどかったし長かった。私にとってはとてつもなく過酷な24日間だった。途中何度も無理なんじゃないかと弱気になったけど、そんな私でも頑張ってついにゴールできた。そして、今までの辛さがこの景色ですべて吹き飛んで行く。
JMTサウスバウンドのゴールはここマウントホイットニーの頂上。私たちのJMTは終わったのです。
放心状態の私に「もしかしてモモ…?」と横から声をかけて来たのは、MTR手前からずっと会えずにいたヨシュアとクリスティーナでした。
彼らは夜中のうちに山頂にアタックし、ここで寝袋に入りながら夜を明かしていたのです。久々の再会で嬉しすぎてみんなで抱き合い、お互いを称え合いました。みんな本当によく頑張ったね…!
朝日が顔を出し始めるにつれ、みんな最後のエネルギーを使い果たすくらいテンションが上がっていきます。あまり寝ていないはずなのに、一人一人の表情がキラキラと輝いています。
ケイティはユニコーンのコスチュームに着替え(JMT中ずっと担いで来たの…?)、家族とFaceTime。
昨晩ベースキャンプで声をかけて来たマイルズは、オレンジ色の朝日を見つめながら「It's time...!」と呟き、横に居た私に一眼レフを渡し、「撮影を頼む」と言って服を脱ぎ始めました。
ヨシュアとクリスティーナを撮影したらモデルが良すぎて何かの広告風になったり。
数時間前に出会ったブライアンももうファミリー。
全員が家族のように一つになり、抱き合い、喜びを分かち合った最高の朝でした。この24日間、雨は一度も降らず、熊にも遭遇せず、怪我も病気もせずにここまで来ることが出来たのは、運と友人に恵まれたこと、そして何より夫が支えてくれたおかげです。
マウントホイットニー頂上には小屋があり、小屋の前に記帳ノートがあります。私は出会えたハイカーやレンジャー、協力してくれた全ての人々に敬意を表しました。
JMTを終えて頂上を堪能した後は、ホイットニーポータルまでの長い長い下山が始まります。
標高4,418mから一気に標高2,545mへ。距離にして17km。
午前7時、下山開始。まずはジャンクションまで戻り、デポしていたザックを取りに行きます。
夜中に歩いた時は全く分からなかったけれど、とんでもない所を歩いて来たな…と急に怖くなります。
24日間を過ごしたシエラネバダ山脈を振り返ります。
なんて美しいんだろうか…。言葉になりません。
午前8時過ぎ、ジャンクションに到着。人も増え始めていたので、ある程度降りてから休憩をする事に。
ジャンクションからトレイルクレストまでは若干の登り。トレイルクレストからは残酷なほどの下りが続きます。
午前10時半、長いスイッチバックからの解放。あんな高いところから2時間かけて急斜面を降りてきました。ようやく休憩できそうな場所でコーヒーを入れます。
JMTからの解放と、下で待ち構えている文明社会。頑張って降りるぞ!
深夜2時から歩きっぱなしのせいか、足首の痛みに加えて足がもつれ始めます。夫が先に降りている中、途中道を間違えて違うルートへ進んでしまって迷子になる私。
さらには小さな小川で滑って転び、全身びしょぬれ&肘から流血。最後の最後で何やってるんだろう…。
私が降りて来ないことに気付き途中で待っていた夫は、泥だらけ&血を流し、足を引きずりながら降りてきた私を見て「え…?」とギョッとしていました。
午後2時、ついにホイットニーポータルに到着!睡眠不足の中の7時間の下り、よく頑張った…!
グリルの外で待ち構えていたケイティ&ブレンデンと再会し、迷ったあげく転んだことを笑顔で報告。本業がナースのケイティが手当してくれました。
グリルにハンバーガーを買いに行き、コーラとビールで乾杯!JMTが終わったというのに、ケイティから「あんたたちのトレイルネームを考えたの!タロウは“ゴープロ”、モモは“バーガー”ね!」と言われました。ちなみにケイティは“フィッシュテイル”、ブレンデンは“ケアベア”、オマールは“タンク”というトレイルネームです。
ブライアンもテラスに来て、みんなでビールを飲みながらあれこれと思い出話。
その後、ケイティ夫妻にホイットニーポータル麓のローンパインという町まで送ってもらいました。ブレンデンは、「うちはすごい狭いんだけど、もし良ければ一緒に帰ってうちに泊まらない?」と言ってくれて、こんなに疲れて久々に家に帰れるというのに、なんて優しい人なんだと感動しました。
私たちはローンパインのホステルに山道具以外の荷物を送ってあったので、ありがたいけどホステルに泊まるよ、と言うと、「LAを離れる前に必ずもう一度会おう!」ということになり笑顔で別れました。
ホステルは古い建物と設備でしたが、個室を予約できていたため気を使わずにゆっくりできました。インデペンデンス以来のシャワーでしたが、思ったよりも身体は汚れていました。荷物も無事に受け取り、明日からは今まで以上に大荷物です。
ホステル向かいにコインランドリーがあったので洗濯をしに行き、スーパーでしばらく食べられなかったオレンジとアイスを購入。
その道すがら、ギターレイク手前で少し話したソロハイカーに遭遇。彼も同じホステルのドミトリーに泊まるそうで、しばらく立ち話をしました。
乾燥機に洗濯物を突っ込み、夕ご飯に中華料理屋へ。注文前に店員さんが「1つの皿がもの凄くデカいの。よほど大食でなきゃ1皿で十分よ!」と親切に教えてくれて、夫と1皿をシェアしました。本当にデカかった。
終わった実感はまだ涌かず、明日からもう歩かなくていいことが信じられないまま、効きすぎる冷房の中で就寝しました。
- 実際の歩行距離(iPhoneヘルスケア調べ):28km
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